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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)536号 判決 1989年5月30日

主文

一  被告は、原告に対し、金四四九万五八八六円及びこれに対する昭和五八年二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一、第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四四五一万四〇八六円及びこれに対する昭和五八年二月九日から支払済みまで年五分の金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原被告の連帯保証契約

(一) 訴外株式会社トーメン(以下「トーメン」という。)との関係

(1) 原被告は、それぞれ、昭和四七年一〇月二日、トーメンとの間で、訴外東洋燃料株式会社(以下「東洋燃料」という。)がトーメンに対して現在及び将来負担する一切の債務について連帯保証をすることを約し、原告は別紙物件目録(一)記載の各土地(以下「本件(一)の土地」という。)に、被告は同目録(二)記載の土地・建物(以下「本件(二)の土地・建物」という。)に、合わせて極度額七〇〇〇万円の共同根抵当権を設定した。

(2) 原被告は、昭和四九年三月二七日、トーメンとの間で、右根抵当権の極度額を一億円に、同年八月二七日、二億円にそれぞれ増額する旨を約した。

(3) 原告は、同日、別紙物件目録(三)記載の各土地(以下「本件(三)の土地」という。)を右根抵当権の共同担保として追加することを約した。

(二) 訴外トーメン石油株式会社(以下「トーメン石油」という。)との関係

(1) トーメンは、トーメン石油に対し、昭和五一年一一月二六日、原被告の承認を得て、前記1(一)の根抵当権のうち、その対象根抵当物件から本件(一)の土地のうち<2>及び<3>記載の各土地を除いた本件(一)<1>、(二)及び(三)の各土地・建物に設定された部分を一部譲渡した(以下「本件根抵当権」という。)。

(2) 原被告は、同日、トーメン石油との間で、東洋燃料がトーメン石油に対して現在及び将来負担する一切の債務について、前記1(一)(1)と同様の内容で、それぞれ連帯保証をした。

(三) 訴外昭石トーメン株式会社(旧商号中央石油販売株式会社、以下「昭石トーメン」という。)との関係

(1) トーメン及びトーメン石油は、昭石トーメンに対し、昭和五三年一二月六日、原被告の承認を得て、本件根抵当権を一部譲渡した。

(2) 原被告は、同日、昭石トーメンとの間で、東洋燃料が昭石トーメンに対して現在及び将来負担する一切の債務について、前記1(一)(1)と同様の内容で、それぞれ連帯保証をした。

2  訴外丙川二夫(以下「丙川」という。)について

丙川は、昭和五二年八月三〇日、東洋燃料が、トーメン石油及び昭石トーメン(以下「トーメン石油ら」ともいう。)に対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため別紙物件目録(四)記載の土地・建物(以下「本件(四)の土地・建物」という。)に極度額二〇〇〇万円の根抵当権を設定するとともに、右各債務について連帯保証をした。

3  訴外甲野三郎(以下「三郎」という。)について

三郎は、昭和五五年九月五日、東洋燃料が、トーメン石油に対して負っていた後記4の債務のうち、二億円について連帯保証をした。

4  東洋燃料のトーメン石油らに対する昭和五五年九月五日時点の債務は、次のとおりである。

(一) トーメン石油に対する債務

(1) 昭和五三年一二月一日から昭和五四年二月二八日までの間の石油類買掛代金債務 八一二三万五一〇九円

(2) 昭和五三年三月三一日付金銭消費貸借契約に基づく借入金債務残額 六六六五万七五二九円

(3) 昭和五三年四月三〇日付金銭消費貸借契約に基づく借入金債務残額 一億円

(4) 昭和五一年八月一〇日付公正証書に基づく保証債務 一八七万四六四〇円

(5) 石油類買掛金債務に対する昭和五四年五月一日から同年八月一〇日までの間の利息金 一九二万九六〇九円

(6) 借入金債務に対する昭和五四年一月一日から同年八月一日までの間の利息金 七七七万四八七九円

(7) 右(1)ないし(4)の債務元本に対する昭和五四年八月一一日以降日歩八銭の割合による遅延損害金

(二) 昭石トーメンに対する債務

(1) 昭和五三年一二月一日から昭和五四年二月二八日までの間の石油類買掛金債務 一億一九二九万三四九〇円

(2) 昭和五三年一月一日付販売施設賃貸借契約に基づく賃料債務 一五万六六〇〇円

(3) 保険料立替債務 一二万円

(4) 石油類買掛債務に対する昭和五四年三月一日から同年八月一〇日までの間の利息金 三九三万六九八八円

(5) 右(1)ないし(3)の債務元本に対する昭和五四年八月一一日以降日歩八銭の割合による遅延損害金

5  トーメン、トーメン石油及び昭石トーメンと原告との調停等

(一) 原告は、トーメン、トーメン石油及び昭石トーメン(以下「トーメンら」という。)が、本件根抵当権に基づいて競売を申し立てたため、右三者を相手方として、昭和五四年、大阪簡易裁判所に不動産任意競売申立等取下請求の調停申立て(同庁昭和五四年(ノ)一四六九号)をした。

(二) 調停の成立

右事件において、昭和五五年九月五日、左記の内容を骨子とする調停が成立した。

(1) 主たる債務の内容の詳細は、前記4のとおりであり、合計額が次のとおりであることを確認した。

<1> 東洋燃料のトーメン石油に対する債務は、二億五九四七万一七六六円及びうち二億四九七六万七二八二円に対する昭和五四年八月一一日から日歩八銭の割合による遅延損害金である。

<2> 東洋燃料の昭石トーメンに対する債務は、一億二三五〇万七〇七八円及びうち一億一九五七万〇〇九〇円に対する昭和五四年八月一一日から日歩八銭の割合による遅延損害金である。

(2) 原告はトーメン石油に対し、一億一七八四万円及びこれに対する左記割合の遅延損害金を昭和五六年八月三一日限り支払う。

<1> 昭和五五年五月九日から同年一一月三〇日の間(二〇六日間)年六パーセント

<2> 昭和五五年一二月一日から昭和五六年六月三〇日の間(二一二日間)年一〇パーセント

<3> 昭和五六年七月一日から同年八月三一日の間(六二日間)年一二パーセント

(3) 原告は昭石トーメンに対し、五六〇〇万円及びこれに対する左記割合の遅延損害金を昭和五六年八月三一日限り支払う。

<1> 昭和五五年五月九日から同年一一月三〇日の間(二〇六日間)年六パーセント

<2> 昭和五五年一二月一日から昭和五六年六月三〇日の間(二一二日間)年一〇パーセント

<3> 昭和五六年七月一日から同年八月三一日の間(六二日間)年一二パーセント

(4) トーメン石油らは、原告が右(2)及び(3)の金員をその期限内に支払ったときは、原告及び三郎がトーメン石油らに対して負担する残余の各連帯保証債務を免除する。

(三) 原告の履行(調停内容どおりの支払)

(1) 原告は、トーメン石油に対し、次のとおり支払った。

<1> 昭和五六年六月二二日 四四〇六万三五〇〇円

<2> 同年七月三一日 八五二六万六六四八円

合計 一億二九三三万〇一四八円

(2) 原告は、昭石トーメンに対し、次のとおり支払った。

<1> 昭和五六年六月二二日 二〇九三万六八〇〇円

<2> 同年七月三一日 四〇五二万三八九九円

合計 六一四六万〇六九九円

6  被告の支払

(一) 被告は、昭和五六年一〇月一二日、トーメンらとの間で、同月一五日限り次の金員を支払ったときは残債務を免除する旨の内容を包含する和解契約を締結した。

(1) トーメン石油に対し、二〇三三万五八〇〇円

(2) 昭石トーメンに対し、九六六万四二〇〇円

(二) 被告は、昭和五六年一〇月一五日、右金員をそれぞれ支払い、同時にトーメン石油らより各残債務の免除を受けた。

7  原告の被告に対する求償内容のまとめ

(一) トーメン石油関係

<1> 原告の支払額 一億二九三三万〇一四八円

<2> 内部負担割合 原告、被告、丙川、三郎各四分の一

<3> 原告の内部負担額(<1>×1/4) 三二三三万二五三七円

<4> 原告の他の連帯保証人に対する求償可能額(<1>-<3>) 九六九九万七六一一円

<5> 被告に対し、その三分の一 三二三三万二五三七円

(二) 昭石トーメン関係

<1> 原告の支払額 六一四六万〇六九九円

<2> 内部負担割合 原告、被告、丙川各三分の一

<3> 原告の内部負担額(<1>×1/3) 二〇四八万六九〇〇円

<4> 原告の他の連帯保証人に対する求償可能額(<1>-<3>) 四〇九七万三七九九円

<5> 被告に対し、その二分の一 二〇四八万六八九九円

(三) 被告の支払による控除額

(1) トーメン石油(2033万5800×1/4) 五〇八万三九五〇円

(2) 昭石トーメン(966万4200×1/3) 三二二万一四〇〇円

合計 八三〇万五三五〇円

(四) よって、原告は被告に対し、求償権に基づき、(一)<5>の三二三三万二五三七円と(二)<5>の二〇四八万六八九九円との合計五二八一万九四三六円から(三)の被告の支払額八三〇万五三五〇円を控除した四四五一万四〇八六円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五八年二月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし6の事実はいずれも認める。

2  同7の計算方法は争う。

原告は、一部免除の効力が他の連帯保証人にも効力を有することを前提としており、不当である。連帯保証人に対する免除には、民法四三七条の適用がないと解すべきである。なお、仮に適用があるとしても原告の算式は正しくない。

三  抗弁

1  原告、被告、丙川及び三郎の内部負担割合について

(一) 原被告についての合意に基づく負担割合

(1) 被告の負担割合を零とする合意

<1> 三郎、被告及び丙川は、いずれも訴外株式会社ゼネラル石油販売所(以下「ゼネラル石油販売所」という。)に勤めていたが、昭和四六年一二月頃同会社を退社し、トーメンの協力を得て右三名を取締役として新会社東洋燃料を設立することとし、昭和四七年七月頃には話が具体化し、被告は、取締役になる以上形式的に必要ということで請求原因1(一)(1)のとおり本件(二)の土地・建物を担保提供したもので、トーメンに対する連帯保証債務については、三郎を介して原被告間で被告の負担部分を零とする旨合意した。

<2> 右トーメンに対する連帯保証債務についての内部負担割合の合意は、同様の内容で連帯保証契約をしたトーメン石油らとの関係の各連帯保証債務についても引き継がれた。

<3> 原告は三郎に対し、前記<1>の合意に先立ち、新会社設立に当たって自己所有の本件(一)及び(三)の土地を担保提供すること及び東洋燃料の債務を連帯保証することに関して交渉する権限(内部負担割合を決める権限を含む。)を与えた。

(2) 内部負担割合を担保不動産の価格に応じて決するとの黙示の合意

<1> 主債務会社東洋燃料の経営者(代表取締役)であった三郎、従業員(取締役)であった被告及び丙川の三者間には会社経営をなすための機能的結合があったので、トーメンに対する連帯保証債務については、黙示的に、「経営責任に比例して担保提供の割合が決まる」「高い価値の担保物件を提供した者がより高い負担部分を負う」旨の黙示の合意があった。そして、最終的には、昭和四七年一〇月初め頃までに、原告代理人三郎を通じて、原告と被告の間で、「担保提供をする不動産の価格の割合に従って保証をする。」旨の黙示の合意が成立した。

<2> 右トーメンに対する連帯保証債務についての内部負担割合の合意は、同様の内容で連帯保証契約をしたトーメン石油らとの関係の各連帯保証債務についても引き継がれた。

<3> 原告は三郎に対し、前記<1>の合意に先立ち、新会社東洋燃料設立に当たって自己所有の本件(一)及び(三)土地を担保提供すること及び東洋燃料の債務を連帯保証することに関して交渉する権限(内部負担割合を決める権限を含む。)を与えていた。

<3> 提供した不動産の価格は、昭和四七年度の時価で、

原告(本件(一)の土地のみ。) 四七〇〇万円

被告(本件(二)の土地・建物) 二〇〇〇万円となっており、原告と被告の提供担保の価格比率は、およそ〇・七〇一五対〇・二九八五となる。

(3) 丙川及び三郎について

原告の内部負担割合は、丙川及び三郎の内部負担割合を零として決すべきである。

<1> 丙川

丙川についても、担保提供する不動産の価格に従って保証するとの黙示の合意が、原被告間であったが、丙川が担保提供した不動産には、先順位で住宅ローンの負担があったので担保価値がなく、保証責任の負担割合は計算上ほぼ零である。

<2> 三郎

原告と三郎は夫婦であり、東洋燃料の経営については一体関係にあり、同人は現実に保証履行能力も担保提供能力もなかったのであるから、法的負担割合に変化を生じさせる保証人の追加があったとはいえない。

(二) 実質的公平の見地に基づく負担割合

仮に、原告、被告、丙川及び三郎の間に内部負担割合についての合意がなかったとしても、内部負担割合は次のとおりに決すべきである。

連帯保証の場合は、連帯債務の場合と異なり、保証人間に主体的結合関係がないので、内部負担割合については平等の論理ではなく、公平の論理が働くというべきであり、主たる債務の借入れによって利益を得たものがそれに応じた負担部分を負うと解すべきである。本件の当事者間の事実関係は次のとおりである。

(1) 東洋燃料設立の経緯

東洋燃料は、昭和四七年九月一〇日、ゼネラル石油販売所の重油部門が独立して新会社として設立されたが、その際の出資割合は、トーメン八〇〇〇株、三郎七八〇〇株、丙川及び被告各一〇〇〇株、トーメン燃料部長訴外片岡太平、同課長訴外笠原望及び東洋燃料総務部長訴外徳岡某(以下「訴外徳岡」という。)各四〇〇株であった。

三郎は代表取締役、被告及び丙川は取締役となり、実質的な仕事は被告および丙川がやっていたものの、経営方針等は三郎の独断で決めるなど、東洋燃料は三郎の独占支配体制にあった。

(2) 連帯保証時に提供した担保物件の価格割合

東洋燃料における会社支配の割合は、本件連帯保証に当たって担保提供した不動産の価格比率に如実に表れている。

担保提供した不動産の価格比率はおよそ次のとおりである。

原告 〇・七〇一五

被告 〇・二九八五

丙川 住宅ローンの担保に入っているのでほとんど零である。

三郎は代表取締役でありながら、担保に供しうる資産を有しておらず、妻である原告に代わりに提供して貰っているので、原告提供分は三郎分と同一視してよい。

(3) 三郎の東洋燃料に対する独占的支配

<1> トーメンから三郎に対する三〇〇〇万円の支払

東洋燃料の倒産後の昭和五五年九月以後、三郎の銀行預金口座に、トーメンから技術指導料の名目で三〇〇〇万円が振り込まれたが、被告は、そのうちから還付を受けていない。

<2> トーメン石油らに対する実際の支払額

トーメンらは、原告、被告、三郎及び丙川について、東洋燃料との実質的関係と資力を調査したうえで請求額を決めたと考えられる。支払額は次のとおりである。

原告 一億九〇七九万〇八四七円

三郎 〇円

被告 三〇〇〇万円

丙川 二〇〇万円

<3> 東洋燃料についての出資割合

東洋燃料についての出資割合は前記抗弁1(二)(1)のとおりである。

<4> 新会社(訴外東洋通商株式会社)についての出資割合

原告 一二〇〇株

三郎 三六〇〇株

被告 二〇〇株

乙山夏子(被告の妻) 二〇〇株

丙川 二〇〇株

丙川秋子(丙川の妻) 二〇〇株

以上によれば、原告と被告の内部負担割合は一〇対〇ないし七対三ということができる。

2  原告に対する相対的免除

(一) 仮に、連帯保証人間に民法四五八条(四三七条)の適用があるとしても、昭和五五年九月五日の調停で、トーメン石油らが原告に対してなした残額の支払免除は、一定額の支払をすれば残額は原告には請求しないというもので、他の連帯保証人への請求額を減少させる趣旨を含まない相対的な免除であった。

(二) 遅延損害金増加に伴う内部負担額の増加

主たる債務の遅延損害金は免除後も増加するので、原告の負担部分は、原告が一部弁済をして残額の免除を受けた昭和五六年七月三一日以後も増加し続け、昭和六三年一一月九日までで遅延損害金を合わせて、トーメン石油の関係で、負担割合を四分の一として計算しても合計一億五一三三万三三七五円になる。

昭石トーメンの関係では、原告が最初に一部弁済をした昭和五六年六月二二日の時点で遅延損害金を合わせて、負担割合を三分の一として計算すると六一五三万八七三九円になる。

したがって、相対的免除を前提とすると、いずれの場合も原告の支払額は負担部分を上回っていないから原告に求償権は発生しない。

3  丙川及び三郎の無資力

仮に、内部負担割合について特段の合意がないとしても、丙川及び三郎は、現在実質上民法四六五条で準用される同法四四四条にいう無資力の状態にあるから、原告の内部負担割合は、丙川及び三郎の内部負担割合を零として決すべきである。

4  権利濫用

(一) 三郎と原告の同一視

三郎と原告は夫婦であったところ、三郎が生計を立てるために東洋燃料を設立し、代表取締役として経営に当たることになった。東洋燃料は、トーメンらとの取引に当たって担保物件が必要となったが、三郎は代表取締役であったにもかかわらず担保に供しうるような物件を所有していなかったので、同人に代わって原告が本件不動産を担保に供したのである。したがって、原告は、三郎が本件(一)及び(三)の各土地を担保に供することに許諾を与えていたし、連帯保証についても、契約当初は原告の名前だけが保証人として出ていたことからもうかがえるように、トーメンらも三郎と原告を一体のものとして扱っていた。

(二) 三郎の東洋燃料の私物化

(1) 東洋燃料は、昭和四七年九月一〇日、ゼネラル石油販売所の重油部門が独立して新会社として設立されたが、その際の出資割合は、前記抗弁1(二)(1)のとおりである。

三郎は代表取締役、被告は取締役となり、実質的な仕事は被告がやっていたものの、経営は三郎の独断で決められ、東洋燃料での給料は、設立当初は同じ位であったが、最終的には三郎九〇万円(うち二〇万円は東和石油株式会社の給料)、丙川三七万円、被告は二七万円であった。

(2) 東洋燃料の倒産原因

東洋燃料は、ゼネラル石油販売所から重油部門の得意先を引き継いでこれを相手に商売していたのであるし、昭和四八年一二月二〇日からのいわゆる第一次石油ショックの影響で売上げも順調であったのであるから、倒産するなど考えられないところであるが、三郎の乱脈経理・放漫経営によって倒産してしまった。

乱脈経理・放漫経営の例として次のような事例があった。

<1> 昭和五三年頃、原告は、訴外梅花学園のPTA会長をしていたところ、同学園の創立一〇〇周年記念式典を挙行するに際し、三〇〇万円の費用が必要になったため、三郎に命じて、東洋燃料が取引していた訴外東洋整染他二社の手形を町の金融屋で割り引かせ、その金を右式典の費用として流用した(なお、この金員は後に三郎が現金を会社に補填している。)ほか、東洋燃料所有の椅子・机を同学園に持ち込ませ、返却しないままになっている。

<2> 原告は、自分が担保を供しているのに三郎の給料が七〇万円では少ないとして、三郎を通じて訴外東和石油株式会社(以下「東和石油」という。)を設立させ、この会社は本来訴外大建商事の不良債権を引き受けるためのいわば粉飾決算用の会社であり、設立当初から赤字が予想された会社であるのに、その会社から給料二〇万円、賞与一〇〇万円、年間合計五二〇万円を取得するよう三郎に指示しており、三郎は実際それを実現していた。

<3> 東洋燃料の倒産は、直接には親会社(トーメン)に見離されたことに起因しており、見離された理由は、三郎が、東洋燃料の顧問の肩書きの付いた名刺を暴力団○○組組長山田七郎に作って渡していたからである。

(三) 東洋燃料倒産後二年も経過した時期に、トーメン石油らから合計三〇〇〇万円が技術指導料名目で三郎の口座に振り込まれているが、この金は原告が三郎名義の口座を使って取得したものである。また、この金は、金額及び支払時期からして被告がトーメン石油らに弁済した金員と推定される。

(四) 原告は、丙川には求償していない。

以上の事実を考慮すると、原告の被告に対する求償請求は、信義則に反し、権利濫用である。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)について

(1) (1)<1>の事実のうち、被告ら三名の勤務状況、東洋燃料設立の話が具体化したことは認め、その余は否認する。<2>は否認する。<3>の事実のうち、原告が三郎に本件(一)及び(三)の土地に根抵当権を設定することに関する交渉についての代理権を与えていたことは認めるが、連帯保証契約及び被告の内部負担割合を零とする権限を与えていたことは否認する。

(2) (2)の事実のうち、<1>、<2>及び<4>は否認する。内部負担割合は連帯保証人の合意によって決まることがあるが、権利関係に影響を及ぼす事項であるから、この合意は明示のものでなければならない。<3>の事実のうち、原告が三郎に対し内部負担割合について被告と交渉をし合意する権限までも与えていたことは否認し、その余は認める。

(3) (3)<1>の事実のうち、本件(四)の土地・建物に住宅ローンの負担があることは認めるが、その余は否認する。

(4) (3)<2>の事実のうち、原告と三郎が夫婦であることは認め、その余は否認する。

(二)  抗弁1(二)について

頭書部分は争う。(1)及び(2)の事実は否認する。(三)<1>の事実のうち、三郎の銀行預金口座にトーメンから技術指導料の名目で三〇〇〇万円が振り込まれたことは認める。<2>及び<4>の事実はいずれも認め、<3>の事実は否認する。

2(一)  抗弁2(一)の事実は否認する。

債権者トーメン石油らは、原告に対する一部免除に絶対的効力を認めるとか相対的効力しか認めないかということは全く意識していなかった。

(二)  抗弁2(二)は争う。

3  抗弁3の事実はいずれも否認する。民法四四四条にいう「無資力」とは、支払不能又は支払停止等の破産原因や強制執行により支払資力のないことが確定したことが必要と解すべきである。

4  抗弁4について

(一) (一)の事実のうち、トーメンらも三郎と原告と一体のものとして扱っていたことは否認し、その余は認める。原告が三郎に与えていた代理権は本件(一)及び(三)の土地を担保に供することについてのみであり、原告は東洋燃料の役員でもないうえ、本件(一)及び(三)の土地の取得に三郎が協力したといった事情もないのであるから夫婦別産制を取る民法の建前からして原告が三郎と同一視される理由はない。

(二) (二)(1)の事実のうち前段は認めるが、後段は否認する。(2)の頭書部分のうち、東洋燃料が三郎の乱脈経理・放漫経営により倒産したことは否認し、その余は認める。<1>は否認し、<2>の事実のうち東和石油が設立されたこと及びその設立目的は不知、その余は否認する。<3>は否認する。

(三) (三)の事実のうち第一文認め、第二文は争う。三〇〇〇万円は、トーメンが東洋燃料の商権を買取ったことに対する対価であり、東洋燃料がすでに実体を有していなかったので、三郎の銀行預金口座に振り込んだもので、本件とは関係がない。

(四) (四)の事実は認める。

本請求が権利濫用であることは争う。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1ないし6の事実についてはいずれも争いがない。

二  民法四三七条の準用について

被告は、主債務者との関係で負担部分のない連帯保証契約には、民法四三七条の準用はない旨主張するので検討する。

債権者が連帯保証人の一人に対して債務を免除した場合に、連帯債務の場合について規定している民法四三七条の準用ができるか否かについては、連帯保証人間の法律関係を連帯債務ないしこれに準ずる法律関係として把握しうるか否かにかかっていると解されるところ、連帯保証人間に連帯して保証債務を負担する旨の特約がある場合(いわゆる保証連帯場合)、または、商法五一一条二項に該当する場合には各保証人間には連帯債務類似の連帯関係が生じ、負担部分に応じた求償関係が生じるので、求償の循環を避ける趣旨で設けられた民法四三七条の準用があると解するのが相当である(最高裁判所昭和四三年一一月一五日第二小法廷判決民集二二巻一二号二六四九頁参照)。本件は、主たる債務の債権者及び債務者がいずれも株式会社であって、主たる債務は商事債権であるから、その連帯保証である本件連帯保証契約には商法五一一条二項の適用がある。したがって、本件は民法四三七条の準用が当然に排除される場合ではない。

三  原告、被告、丙川及び三郎の内部負担割合について

1(一)  東洋燃料設立の経緯

<証拠>によれば、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 昭和二五年、三郎は、被告が経理担当として勤務していた訴外関西石炭株式会社(代表者訴外八代好三)に、法律の専門家として入社し、営業の仕事をするようになり、昭和三〇年に丙川が入社し、三者が一緒に働くようになった。同社は、昭和三七年に関石物産に社名変更をしたが、昭和三九年には倒産し、三郎が中心となって倒産整理をした。

(2) その後、訴外八代好三が中心となって訴外関西石油石炭株式会社を設立し、同人が会長、三郎が代表取締役に就任した。三郎は資本金三〇〇万円のうち一五〇万円から二〇〇万円を出資しており、社長は訴外八代であったが、実権は三郎が握っていた。被告は営業担当であった。

昭和四一年、右会社は、ゼネラル石油販売所と合併し、三郎は取締役営業部長、丙川は課長、被告は部長付きの課員としてセールスを行っていた。

(3) 合併後、三郎、被告、丙川及び訴外徳岡は重油部門を担当していたが、訴外ゼネラル石油株式会社ないしゼネラル石油販売所はガソリン販売を主とし、重油販売には消極的であったため、同人らは冷遇されていたところ、昭和四六、七年頃、トーメンの工藤課長から三郎及び丙川に対し、独立会社を作る話があった。当初の計画では、三郎、トーメン、ゼネラル石油株式会社の合弁会社として設立し、三郎が経営する、トーメンが重油を供給するという計画であったが、結局ゼネラル石油株式会社は出資せず、役員を派遣するに留まった。役員の打合せは三郎、丙川、トーメンの工藤課長の三人で行われ、結局設立当初の役員は三郎、丙川、被告、トーメンの訴外片岡太平及び訴外笠原望の五名がなり、昭和四七年九月一〇日、東洋燃料が設立された。

(二)  本件連帯保証契約締結の状況

前記一の争いのない事実、<証拠>によれば、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 東洋燃料の設立計画が具体化した昭和四七年七月頃、トーメンから三郎に対し、トーメンが設立予定の東洋燃料に供給する重油の売掛金について物的担保を提供して欲しいという話があった。

三郎は、提供するに値する担保不動産を全く所有していなかったため、妻である原告に頼んで担保を提供して貰うこととし、原告に対し、「乙山さんも担保を出すので出してくれ。」と言って説得し、更に、被告に対し、「自分の妻(原告)は土地を沢山持っている。妻が担保に供する以外にもまだ沢山土地がある。おばあさん(原告の母)の了解も得て提供しているのであるから、君(被告)には迷惑を掛けない。もちろん、このことは妻の了解を得たうえでのことである。」と言って説得した。(なお、証人甲野三郎は、「乙山が私が迷惑をかけないと話をしたことはありません。」旨証言するが、前記三1(一)認定の事実、右各証拠に照らして措信できない。)

(2) 担保提供については、東洋燃料内部では不動産を持っているものが、「これだけ出せます。」という形で提供したもので、丙川については所有物件がなかったので、担保を提供せよという話はなく、何も提供しなくてよいということになっていた。

(3) 東洋燃料設立後の昭和四七年一〇月二日、三郎及び原被告は、訴外田実博税理士の事務所において、根抵当権設定契約を締結して、同契約書(甲第一号証)に押印し、原告は本件(一)の土地、被告は本件(二)の土地・建物に、東洋燃料がトーメンに対して現在及び将来負担する一切の債務を担保するため、それぞれ極度額七〇〇〇万円の共同根抵当権を設定した。右契約書の第一五条には東洋燃料のトーメンに対する現在及び将来負担する一切の債務を連帯保証する旨の条項があるが、三郎はこれを知っていたものの、原被告に担保提供を頼む際には連帯保証に言及しておらず、原被告とも連帯保証する意識は希薄であった。

(4) 昭和四九年三月二七日頃、東洋燃料とトーメンの取引量が増大したことから、三郎が促して原被告に根抵当権変更契約に同意させて同契約書(<証拠>)に押印させ、右根抵当権の極度額を一億円に引き上げさせ、更に、同年八月二七日、三郎は同様にして原被告に根抵当権変更契約に同意させて同契約書(<証拠>)に押印させて極度額を二億円に引き上げさせたうえ、原告には本件(三)の土地を担保として追加させた。

(5) 本件根抵当権は、昭和五一年一一月二六日、トーメンからトーメン石油に対し一部譲渡されているが、その際の譲渡契約に対する同意は、三郎が譲渡契約書(<証拠>)を原告に示して押印させ、更に、それを被告に手渡して押印させるという形でなされた。本件根抵当権は、更に、昭和五三年一二月二六日、トーメン及びトーメン石油から昭石トーメンに対し一部譲渡されているが、同意を得る形式は同じであった(<証拠>)。

(三)  東洋燃料の設立後倒産までの経緯

前記一の争いのない事実、<証拠>によれば、次の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 東洋燃料は、昭和四七年九月一〇日、前記三1(一)認定の経緯で設立されたが、その際の出資割合は、トーメン及び三郎が各四〇パーセント(金額にすると各四〇〇万円)、訴外一円商事株式会社、丙川及び被告が各五〇万円並びにトーメン燃料部長訴外片岡太平三八万円であった。

(2) 三郎は代表取締役、丙川は取締役営業部長、被告は平取締役となり、実質的な仕事は丙川、被告その他従業員がやっていたものの、経営は三郎の独断で決められ、取締役会は開かれるものの形式的に議事録が作成されるのみで丙川、被告を初めとする役員の意見は反映されない状況にあった。

(3) 東洋燃料での給料は、設立当初は同じ位であったが、最終的には三郎九〇万円(うち二〇万円は訴外東和石油株式会社の給料)、丙川三七万円、被告は二七万円であった。

(4) 三郎は、昭和五三年三月頃、訴外大建商事の不良債権を引き受けるために、いわば粉飾決算用の会社として、訴外東和石油株式会社(以下「東和石油」という。)を設立し、同社から給料二〇万円、賞与一〇〇万円、年間合計五二〇万円を取得していた。

(5) 東洋燃料は、ゼネラル石油販売所から重油部門の得意先を引き継いでこれを相手に商売をしていたのであるが、昭和五四年五月頃倒産してしまった。

(6) 東洋燃料倒産後二年経過した昭和五六年頃、トーメン石油らから合計三〇〇〇万円が技術指導料名目で三郎の口座に振り込まれている。

(7) 東洋燃料倒産後の昭和五四年六月一九日、三郎、被告、丙川は、石油製品の販売、工業薬品の販売を目的とする訴外東洋通商株式会社(資本金三〇〇万円、以下「東洋通商」という。)を設立したが、その際の出資割合は三郎三六〇〇株、原告一二〇〇株、被告、丙川、訴外乙山夏子(被告の妻)、同丙川秋子(丙川の妻)、同高橋上策各二〇〇株であった。

2  被告の内部負担割合を零とする合意について

東洋燃料設立及び倒産の経緯、本件連帯保証契約締結の状況は前判示のとおりであり、右認定事実によれば、ゼネラル石油販売所の重油部門から独立して東洋燃料を設立しようとした三郎、丙川及び被告の三名のうちでは三郎がリーダー的な存在であり、トーメンも東洋燃料設立に当たっては三郎の手腕を信頼して独立の話を持ち掛け、共同出資したものであること、設立後も三郎は東洋燃料の経営方針は他の役員の口を挟ませず独断で決定しており、報酬なども独断で決めていたこと、丙川及び被告ら取締役は従業員と変わらない仕事をしていたことが認められ、これらの事実に照らすと、東洋燃料は三郎のワンマン体制にあったということができる。

しかし他方、前判示の事実によれば、丙川及び被告も東洋燃料に出資をしており、取締役として経営陣に参加していたこと、給料についても当初は三郎と同じ位貰っており、倒産時においても丙川三七万円、被告二七万円位ということで間接的ながらトーメンからの石油等の仕入れによって利益を受けていたことが認められる。

してみると、三郎が被告に担保の提供を依頼する際、「自分の妻(原告)は土地を沢山持っている。妻が担保に供する以外にもまだ沢山土地がある。おばあさん(原告の母)の了解も得て担保提供しているのであるから、君(被告)には迷惑を掛けない。もちろん、このことは妻の了解を得たうえのことである。」と言っていた事実は認められるものの、この事実をもって、三郎が、被告は原告との関係で本件連帯保証の内部負担を負わないとする合意をしたものと認めるには足りず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の右主張は理由がない。

3  内部負担割合を提供した不動産の価格に応じて決するとの黙示の合意について

(一)  東洋燃料設立に際しては三郎がリーダー的存在であり、トーメンも三郎の経営手腕を信頼して共同出資したこと、東洋燃料は三郎のワンマン体制にあったこと、しかし被告もトーメンからの重油仕入れによって利益を受ける立場にあったばかりか、従業員と同じ仕事をしていたとはいえ取締役の地位にあったこと、三郎は被告に担保提供を依頼する際連帯保証については言及せず担保提供のみを依頼したが、被告は昭和四七年一〇月二日訴外田実税理士の事務所において、連帯保証条項(第一五条)がある本件根抵当権設定契約書(甲第一号証)に自ら押印したこと、被告は本件(二)の土地・建物を担保として提供する意思があったことは前判示のとおりであり、以上の事実に照らすと、被告は、自ら連帯保証契約について責任を負っても仕方のない立場にあり、また、東洋燃料が倒産するような自体になれば右土地・建物を失うことになることは充分予見していたものということができる。

(二)  トーメン石油らに対する連帯保証契約が、トーメンに対する連帯保証と同様の内容で締結されたことは当事者間に争いがない。

(三)  連帯保証契約締結の状況、原告が三郎の妻であることは前判示1(二)のとおりであり、右事実によれば、原告は、三郎が中心になって東洋燃料設立に努力しており、その設立に当たってトーメンに対する仕入債務の担保として物件を集めていることを充分認識したことが推認でき、また、原告は、三郎が全く担保に供するような物件を有しておらず、担保が実行されても全く回収の見込みはなかったにもかかわらず、同人に、「乙山さんも担保を出すから出してくれ。」と言われて担保を提供する意思を固めたこと、三郎が昭和四七年一〇月二日の根抵当権設定契約(第一五条には連帯保証条項があった。)、その後の根抵当権変更契約、根抵当権の一部譲渡に当たって契約書を揃えて原告の下に持参して押印をするだけにして渡していること、原告は何ら拒絶することなく押印していることも前判示のとおりであり、右事実によれば、原告は資金面で三郎を援助しようとしていたことがうかがわれ、本件(一)及び(三)の各土地は三郎の責任を全面的に肩代わりする趣旨で担保提供されたものと推認される。

(四)  しかしながら、他方、<証拠>によれば、原被告はいずれも三郎の要請で担保を提供することにしたものであるが、その際に連帯保証については明確に要請されておらず、三郎を通じて内部負担割合について話し合われた事実もないこと、原被告はいずれも昭和四七年一〇月二日の根抵当権設定契約の際にも連帯保証条項については余り意識していなかったこと、その席上で連帯保証契約について原被告間で会話が交わされた事実もないこと、トーメンも連帯保証についてはかならずしも重視していなかったことが認められ、これらの事実に照らして考えると、前記3(一)及び(三)の事実から原被告間に、被告主張の内部負担割合についての黙示の合意があったということはできず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

(仮に、三郎と被告との間にそのような意思の合致がみられたとしても、三郎が原告に対し、「乙山さんも担保を出すから出してくれ。」と説得している事実に鑑みると、三郎に、そのような権限が与えられていたとは認め難い。)

したがって、被告の右主張は理由がない。

4  内部負担割合が実質的公平の見地から決まるとする主張について

(一)  連帯債務の場合における各連帯債務者間の内部負担割合は、当事者間に合意があればその合意によって決まるが、合意がない場合には各自の受益の割合により定まり、その割合も分明でない場合は各自平等の割合で負担することになる(大審院大正五年六月三日判決民録二二輯一一三二頁参照)。この理は連帯保証の場合についても別異に解する理由はないが、連帯保証の場合は、連帯債務者の場合と異なり、連帯保証人が受益をする場合がまれであるため、連帯保証人が実質上の主債務者であるような特段の事情がない限り、受益の割合によって負担部分が決まることは少ないということができる。

(二)  そこで、本件について検討するに、トーメンから三郎名義の銀行預金口座に技術指導料の名目で三〇〇〇万円が振り込まれたこと、トーメン石油及び昭石トーメンへの支払額が、原告一億九〇七九万〇八四七円、三郎〇円、被告三〇〇〇万円、丙川二〇〇万円であること、東洋通商への出資割合が、原告一二〇〇株、三郎三六〇〇株、被告二〇〇株、乙山夏子二〇〇株、丙川二〇〇株、丙川秋子二〇〇株であることについては当事者間に争いがないところ、他方、本件主たる債務は東洋燃料のトーメンらに対する重油の買掛債務及び会社運営のための借入金等であること、被告及び丙川も東洋燃料に出資をし、取締役として経営陣に参加していたこと、右両名は給料も設立当初は三郎と同じ位貰っていたことなど主たる債務から利益を受けていたのが三郎のみではないことは前判示のとおりであって、原告が三郎の妻であったにしても、三郎が主たる債務の負担によって受益したものをそのまま原告が受益したという事実を示す具体的主張及び立証はないから、前記の事実のみでは原告が実質上の債務者であるといえるような事情があったと推認するに足りず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告の右主張は理由がない。

5  原告の内部負担割合は、丙川及び三郎の内部負担割合を零として決すべきである旨の主張について

(一)  丙川について

前判示三1(二)(2)のとおり、東洋燃料内部では、トーメンに対する担保提供について、不動産を持っている者が出せるだけ提供するという合意ができており、丙川はその当時所有不動産を持っていなかったので担保提供をしなかったことが認められる。そして、前判示三1(二)の本件連帯保証契約締結の状況、<証拠>によれば、丙川は、東洋燃料設立に当たり、三郎、被告あるいはトーメンから連帯保証を求められたことはないこと、連帯保証契約は根抵当権の設定とセットで行われることになっていたこと、トーメン側代理人であった訴外松浦武は、丙川との和解契約においても担保物件の価格を考慮して和解金を決めており、連帯保証よりも根抵当権設定による担保責任を重視していたことが認められる。

しかし、他方、丙川は東洋燃料設立当初から取締役営業部長として役員に加わり、被告よりも多くの給料を貰っていたこと、連帯保証契約については原被告とも余り意識していなかったことは前判示のとおりであり、<証拠>によれば、丙川自身も連帯保証については余り意識していなかったことが認められること、東洋燃料設立の前後から丙川が根抵当権の設定契約をするまでの間、原被告あるいは三郎との間で連帯保証の内部負担割合について何らかの話し合いがなされたことを認めるに足りる証拠は全くないことに照らすと、右認定の事実から被告主張の黙示の合意があったと認めることはできない。

また、実質的公平の観点から負担割合が決まるとする主張が理由がないことは前判示三4のとおりである。

(二)  三郎について

三郎と原告が夫婦であったことは当事者間に争いがない。しかしながら、東洋燃料の経営は三郎の支配下にあったこと、トーメンも三郎の経営手腕を信頼していたこと、三郎は昭和五五年九月五日東洋燃料がトーメン石油に負担していた債務のうち二億円について連帯保証したことは前判示のとおりであり、<証拠>によれば、三郎は、東洋通商について丙川よりも多く出資をしており、昭和五六年七月三一日には代表取締役になっていることが認められ、おなじ、代表取締役の丙川が前判示のとおり月給三五万円を支給されていることを考慮すると、三郎はそれ以上の給料を受け取っていたものと推認されるところ、これらの事実に照らすと、原告と三郎が東洋燃料の経営について一体関係にあったとは必ずしもいえないし、三郎に保証履行能力が全くなかったともいえない。そうすると、被告主張のように三郎の負担部分が当然零であると解することはできない。更に、被告の右主張を善解して黙示の合意の主張あるいは実質的公平の見地から負担部分が決まるとする主張と解しても、黙示の合意の点についてはそれを基礎づける具体的事情について何ら主張立証がないし、実質的公平の見地から負担割合が決まるとする主張は前判示三4のとおり理由がないので、いずれにしても被告の右主張は理由がない。

6  内部負担割合のまとめ

結局、負担割合について連帯保証人間に何らの合意も認められず、また、実質的公平の見地から決定することもできないから、各連帯保証人の内部負担割合は、トーメン石油及び昭石トーメンいずれの関係でも原則に戻って平等割合ということになる。したがって、トーメン石油の関係では、原被告、丙川及び三郎各四分の一、昭石トーメンの関係では、原被告及び丙川各三分の一となる。

四  相対的免除について

1  昭和五五年九月五日、原告がトーメンらとの調停において、本件連帯債務の一部を免除する旨の合意をしたこと(請求原因5(二)、(三))は当事者間に争いがないところ、被告は右免除が相対的免除である旨主張するので検討するに、免除の絶対的効力を規定した民法四三七条は、その趣旨からして強行規定とは言い難く、したがって、当事者の合意によって本条の適用を排除し、相対的効力しか生じないものとすることもできるし、更には免除行為の意思解釈から本条の適用を排除し、相対的効力しか認めないことも許されるものと解される。

(一)  そこで、これを本件についてみるに、当事者間に争いのない請求原因5及び6の事実、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 原告とトーメンらの調停(昭和五五年九月五日)では、トーメン側は調停調書で、他の保証人の弁済期に影響を及ぼさないこと、原告のほかは三郎についてのみ連帯保証債務を免除することを明らかにしていること。

(2) トーメンらは、被告(昭和五六年一〇月一五日)及び丙川(昭和五七年七月二九日)との和解において、改めて主たる債務の総額を確認していること。

(3) トーメンらの代理人として、原告、被告及び丙川との各和解に立ち会った訴外松浦武は、「免除の効果については特別意識していなかった。」が、「各人限りの免除であり、他の者に請求できなくなっては困る。」と考えていたこと。

(4) トーメンらは、最終的に原告、被告及び丙川に支払を求める額を、各人が提供した担保物件の価格におよそ比例するように決めたこと。

(二)  右認定の事実を総合すると、トーメンらが原告に対し調停においてなした免除は、相対的免除であると認められ、したがって民法四三七条の準用を排除したものと解さざるを得ない。

2  遅延損害金の増加に伴う内部負担額の増加

被告は、本件主たる債務の遅延損害金は、原告が支払をし残額の免除を受けた後も増加するので、負担部分を超えておらず、相対的免除を前提とすると求償権は発生しない旨主張するので検討する。

確かに、連帯保証人が支払をし、残額について相対的免除を受けたとしても主たる債務は全額消滅するわけではなく、残額について遅延損害金は発生する。しかし、支払をした連帯保証人は、支払をし残額の免除を受けた時点で完全に連帯保証債務を免れ、求償権を取得するのであり、遅延損害金が生じるのは未払になっている債務残額についてであること、支払をした連帯保証人の内部負担額を超える部分については他の連帯保証人が支払を免れ、主たる債務としての遅延損害金は発生していないことに鑑みると、支払をし残額の免除を受けた連帯保証人の内部負担額はその時点で確定し、後の遅延損害金発生による主債務の増額によって影響を受けないものと解するのが相当である。

したがって、被告の主張は、原告の支払完了、トーメンらの免除後の遅延損害金の増加を主張する点で失当である(支払完了前の遅延損害金については後記計算のうえで考慮する。)。

五  丙川及び三郎の無資力について

被告は、丙川及び三郎が無資力であるから、原告の負担割合は修正されるべきである旨主張するので検討する。

1  民法四六五条により連帯保証の場合に準用される同法四四四条にいう「無資力」は、その効果として負担部分を免除され、他の連帯保証人の負担部分を増加させるという重大な効果を伴うものである以上、厳格に解釈されるべきであり、支払不能又は支払停止等の破産原因や強制執行により支払資力のないことが確定した場合ないしこれに準ずる場合に限定するのが相当である。

2  そこで、まず、丙川の資力について検討するに、<証拠>によれば、昭和六二年一一月二〇日の時点で、丙川は、母親と妹に対し合計二〇〇万円、他方、東洋燃料に対し四〇〇万円の債務を負っていること、担保提供した本件(四)の土地・建物をその後売却したことが認められるが、他方、右各証拠によれば、母親と妹に対する債務は昭和五一年に借りたもので特に返済約束もないこと、東洋燃料に対する債務はトーメンの二〇〇万円の支払によって決済されたものと認められること、更に、同人は現在東洋通商の代表取締役として三五万円の月給を貰っていることが認められ、<証拠>中右認定に反する部分は、右認定事実に照らし措信することができないところ、これらの事実に照らすと、前記の債務負担状況や本件(四)の土地・建物を売却した事実から丙川の無資力を直ちに推認することはできない。

3  次に、三郎の資力について検討するに、三郎が、昭和四七年一〇月二日の原告とトーメンとの根抵当権設定契約の際提供するに値する物件を所有していなかったことは前判示のとおりであるが、他方、三郎は、東洋通商について丙川よりも多くの出資をしており、代表取締役として丙川の月給三五万円を超える給料を受け取っていたと推認されることも前判示のとおりであり、これらの事実に照らすと、前記の担保提供のための物件を有していなかった事実から直ちに三郎の無資力を推認することはできない。<証拠>には被告の主張に沿う部分が存するが、右証言部分は推測に基づくものであってにわかにこれを措信することができず、他に被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

六  権利濫用

抗弁4(一)について、三郎と原告は夫婦であったところ、三郎が生計を立てるために東洋燃料を設立し、代表取締役として経営に当たることになったこと、東洋燃料はトーメンらとの取引に当たって担保物件が必要となったが、三郎は代表取締役であったにもかかわらず担保に供しうるような物件を所有していなかったので、同人に代わって原告が本件不動産を担保に供したこと、原告は、三郎が本件(一)及び(三)の土地を担保に供することに許諾を与えていたし、連帯保証についても、契約当初は原告の名前だけが保証人として出ていたことは当事者間に争いがない。しかしながら、原告が三郎の妻であること、原告が本件(一)及び(二)の土地の担保提供することにつき許諾を与えていたこと、トーメンが連帯保証人として原告のみを考えていたことが認められたとしても、右事実が原告と三郎を同一とみなし、三郎の責任を全て原告が負担することが正当化される理由とはならない。なぜなら、夫婦といえども法人格としては別人格であり、現行法は夫婦間の財産については別産制を採用し(民法七五五条以下)、夫婦の一方の債務について他方が当然に責任を負う場合を日常家事債務の場合に限定している(同法七六一条)趣旨からして、日常家事債務に当たらない場合は、夫婦であっても、配偶者の行為について一切の責任を負うことを認めていた等特段の事情がない限り一般の他人間の関係と別異に取り扱うべきではないと解されるからである。

被告は、他に、原告が東洋燃料の経営に関与した事情として抗弁4(二)(2)<1>、<2>及び4(三)の事実を主張しているが、これらの事実が認められたとしても原告が三郎をコントロールして東洋燃料を経営していたと認めるには足りず、原告が三郎の東洋燃料を巡る行為について責任を負う理由とはならない。

したがって、被告の権利濫用の主張は理由がない。

七  負担部分の計算

以上の認定事実により、被告の負担部分を計算すると、次のとおりとなる。

1  トーメン石油関係

昭和五六年七月三一日の時点での求償可能額

<1>  主たる債務額 二億五九四七万一七六六円及びうち二億四九七六万七二八二円に対する昭和五四年八月一一日から原告が調停に基づいて一回目の支払をした昭和五六年六月二二日まで、右支払額四四〇六万三五〇〇円を控除した二億〇五七〇万三七八二円に対する同月二三日から原告が調停に基づいて二回目の支払をした同年七月三一日までそれぞれ日歩八銭の割合による遅延損害金

2億5947万1766+2億4976万7282×683×0.0008+(2億4976万282-4406万3500円)×39×0.0008=4億0236万2566円

四億〇二三六万二五六六円

<2>  原告の支払額 一億二九三三万〇一四八円

<3>  内部負担割合 原告、被告、丙川、三郎各四分の一

<4>  原告の内部負担額 (<1>×1/4)

4億0236万2566×1/4=1億0059万0641

一億〇〇五九万〇六四一円

<5>  原告の他の連帯保証人に対する求償可能額(<2>-<4>)

1億2933万0148-1億0059万0641=2873万9506

二八七三万九五〇六円

<6>  被告に対してはその三分の一である九五七万九八三六円を求償することができる。

2  昭石トーメン関係

昭和五六年七月三一日の時点での求償可能額

<1>  主たる債務額 一億二三五〇万七〇七八円及びうち一億一九五七万〇〇九〇円に対する昭和五四年八月一一日から原告が調停に基づいて一回目の支払をした昭和五六年六月二二日まで、右支払金額二〇九三万六八〇〇円を控除した九八六三万三二九〇円に対する同月二三日から原告が調停に基づいて二回目の支払をした同年七月三一日までそれぞれ日歩八銭の割合による遅延損害金

1億2350万7078+1億1957万0090×683×0.0008+(1億1957万0090-2093万6800)39×0.0008=1億9191万7534

一億九一九一万七五三四円

<2>  原告の支払額 六一四六万〇六九九円

<3>  内部負担割合 原告、被告、丙川各三分の一

<4>  原告の内部負担額 (<1>×1/3)

1億9191万7534×1/3=6397万2511

六三九七万二五一一円

<5>  原告の他の連帯保証人に対する求償可能額(<2>-<4>)

マイナスとなるので求償できない。

<6>  したがって、昭石トーメン関係については求償できない。

3  そうすると、原告は、被告に対し、トーメン石油関係の九五七万九八三六円を求償できることになるのであるが、原告はトーメン石油に対する被告支払分二〇三三万五八〇〇円を各負担割合四分の一で除した額を控除して請求しているので、結局四四九万五八八六円を求償することができることになる。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し、四四九万五八八六円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五八年二月九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 見満正治 裁判官 佐藤嘉彦 裁判官 脇 博人)

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